2014年5月2日金曜日

自前ヴァーチャルノートを持っていた先生

科学技術の発展は凄いもので、ちょっと前まではSFだったようなものが現実の製品として次々世の中に出ています。面白そうなものは色々とありますが、その中でAR(拡張現実)の技術にはワクワクするものを感じて仕方がありません。
現実の風景映像に道案内のCGを表示して目的地まで案内してくれるナビソフトなどというものはすでにスマホのアプリとしてあるようですが、これが誰でも使える製品にまでなっていることにはとても驚きです。

と、そんな話も楽しいのですが今回の内容はちょっと違います。
今回話したかったのはそんな技術が全然無い数十年前にすでにヴァーチャルノートなるものを持っていた人の話です。

その人は私が生徒として通っていた塾の先生です。
随分と昔の話になりますがこの先生は凄い人でした。自習形式の塾を運営していたのですが、小学生から高校生までの全科目に1人で対応するという超人振りです。自習形式ですので先生は質問に答えることが主な仕事だったわけですが、いつどんな科目を質問しても基本的に調べたり悩んだりすることはなくその場で答えてくれる様な先生でした。

現在講師をやっている身としてはとても考えられない凄さだとしか言えません。こちらで用意した課題でなく、自由に持ってきた課題を自由に質問してくるわけですから予測は不可能です。加えて大学入試レベルの問題にでもなると初見で即答が困難なことは想像していただけるかと思います。
ですが、その先生はそれでも平気でした。いつでもどんな時でも当たり前のように解いて教えてくれます。

指導のスタイルも凄いです。
例えば数学の問題だとします。まず分からない問題があると生徒は先生を呼びます。すると先生は問題をしばらく眺めます。そしていきなり生徒のノートに万年筆で解法を書きながら説明をしてくれます。
説明の前に準備らしい準備など全くせず、まるで解法を写しているかのように迷いなく一発で書き切ってしまうのです。入試レベルの数学ともなると複雑な計算がノートの1ページを超えてしまうぐらいのことは普通にありますが、その全てがほとんど迷いなく一発で書き切られます。
とても真似できません。

ある日、その完璧なまでの指導が不思議だった私は先生に質問をしました。
「なぜそんなにスラスラと解けるのですか?」
すると先生はその秘密を教えてくれました。
「ヴァーチャルノートがあってそこに一度解いてみてから、それをノートに書き写しているんだよ」
つまり先生には自分にしか見えないヴァーチャルノートがあり、そこに一旦解法を書くのだそうです。そして答えまでたどり着いて内容が正しいことを確認した上で実際のノートに書き写すのだと。書き写すだけだから実際のノートに書くときはスラスラ書けるということです。先生によるとノート見開き分ぐらいはそのヴァーチャルノートに書けるそうです。

驚きました。私はどんなに頑張ってもせいぜい2~3行が良いところですから信じられない気分でした。ですが信じようと信じまいと現実にスラスラとノートを書く様を見ているので信じるしかないという気分です。

あらゆる学年のあらゆる科目に即時対応できるだけでも凄いのに、そんな隠し玉があったとは!
何の勝負をしたわけでもないのですが、勝てないと思いました。

ちなみに先生によると全盛期はヴァーチャルノートのページをめくれたそうです。だから手ぶらで外出してもそこでパラパラとページをめくり勉強が出来たのだと。

機械の力で色々なことが出来るのはとても便利で楽しいことですが、人間の能力も捨てたものではないようです。とてもこれが真似できるとは思いませんが、ただ機械に頼ってしまわず、自分磨きをすれば多少は良くなるかもしれません。

まだまだ未熟な私ですが、これからももっと頑張ります。